15日、東京競馬場で行われた第60回クイーンC(G3)は、ルメール騎乗の3番人気エンブロイダリー(牝3、美浦・森一誠厩舎)が優勝。2馬身半差で2着に8番人気マピュース、さらに1馬身半差の3着に6番人気エストゥペンダが入った。
衝撃のレコード走で桜花賞候補に名乗りを上げた。
掲示板に表示された勝ちタイムは、なんと1分32秒2(良)。この数字を見て目を疑ったファンも少なくなかったはずだ。伸び盛りの3歳2月という時期でマークした桜花賞候補のタイムは、1週前に行われた古馬のマイル重賞、東京新聞杯(G3)のウォーターリヒトのそれを0秒4も上回っていたのである。
もちろん、クイーンCの歴史においても2016年にメジャーエンブレムが更新した1分32秒5(良)より速い。近走で精彩を欠いていたこともあり、3番人気に評価を下げての出走だったが、もともと高い評価を得ていた実力馬が本領発揮といったところか。マイルの距離が不向きだったという敗戦の弁を残してブレイディヴェーグが4着に敗れた先週末を思えば、エンブロイダリーの評価も相対的に上がるだろう。
マイルG1で活躍したアドマイヤマーズ産駒でもあり、血統的に距離延長は歓迎できなさそうな雰囲気もあるが、一応近親にブエナビスタやアドマイヤジャパンもいる。距離適性がより表面化する古馬になってからは未知数とはいえ、3歳春の時点ならオークス(G1)でもチャンスがあるかもしれない。
ただ、騎乗馬に困らないルメールだけに、不安を抱えたまま樫の女王を目指すより、父と同じくNHKマイルC(G1)が無難か。いずれにしても桜花賞候補として大きな注目を集める1頭となったことは間違いない。
■各騎手のコメント
1着エンブロイダリー ルメール
「スタートが良くすぐに2番手につけられた。道中のペースも良かった。そんなに切れはないが段々と加速すれば、スピードをキープすることができる。今日は休み明けでしたが、体に成長も見られ、スタートも上手になっていた。さらに上のレベルへ行ける」
2着マピュース 田辺
「ペースが緩かった。周りの馬が思ったより脚色がなくなり、自分から動いていく形。最後は脚色が一緒になってしまった」
3着エストゥペンダ 三浦
「長く脚を使ってくれた。ペースがどうというより、マイルのリズムがもうひとつ。脚を溜めることができなかった」
これは3着以内に入った騎手のコメントだが、ルメール以外は少々不思議な言葉。ペースが緩くなかったからこそ徐々にスタミナを消耗する流れでもあった上、そんな展開で脚が溜まることもないだろう。ちょっと何言ってるのか分からない。
レースはハナを主張した横山武史のロートホルンが前半3F34秒2で飛ばす前傾ラップ。エンブロイダリーとルメールのコンビも2番手で追走した。マイル戦にしてはハイラップで流れたが、ルメールは先頭に並び掛けるくらいの強気な騎乗で応える。直線で残り300mあたりから先頭に躍り出ると、そのまま後続の追撃を寄せ付けずにゴール。ハイラップで上がり34秒9を使われたら後ろが離されたのも仕方ない。
実際、レースラップ全体を振り返ってみても、なかなか秀逸なラップが刻まれていた。
12.3-10.8-11.1-11.5-11.5-11.5-11.6-11.9
テンの1Fはともかく、ポジション争いが始まった2F目からラストまで一貫して11秒台のラップが続く。道中で息が入るタイミングもなく、スタミナと持続力の勝負。同じスピードで走ってもスタミナのない馬から脱落していく感じか。
こんなラップで残し切れたんだから、むしろマイルより長い距離でも持ちそうな気もしてくるね。でもやはり引っ掛かるのはルメールも話したように切れる脚がないところ。じゃあそれをどうやって克服すべきなのかって答えはダイワメジャーが参考になるだろう。
この馬もスピードはあって切れがないタイプだった。それだけにアンカツさんは他馬よりあえてワンテンポ早い追い出しをしてセーフティーリードを確保する乗り方で結果を残した。
勘のいいファンはとっくに気付いているだろうが、真っ先にイメージする同型馬といえば、ダイワメジャー産駒のメジャーエンブレム。そう、遡ること8年前の桜花賞で1番人気に支持され、守りに入ったルメールが切れ負けして4着に敗れた馬である。被るなあ、これ。そらそうよ。だってエンブロイダリーの父アドマイヤマーズが、そもそもダイワメジャー産駒だったんだもの(笑)。
当時のやらかしてしまった桜花賞のコメントがこれ。
4着メジャーエンブレム ルメール
「今日もスタートはあまり速くなく、5~6番手からの競馬に。スペースができたとき、少し脚を使いましたが、基本同じペースで走る馬で展開も向かなかった」
負けておかしくないポジションで普通に負けての敗戦。当時のルメールはJRAに本格移籍したばかりで嘘みたいに乗れていなかった。それこそG1や重賞で人気馬に乗っては飛ばすばかり。ミルコの方がよほど格上だった時期だった。
結果が出せないから弱気な騎乗になり、それでまた自信を無くすという負の連鎖の繰り返し。今思い出しても本当に酷かったそんなルメールだからこそ、エンブロイダリーとの出会いは8年前のミスを取り返す絶好のチャンスともいえる。
それでもなお気掛かりなのは桜花賞の舞台だ。毎年、猫の目と思えるほど乱ペースになりやすい。一刻一秒を争う判断を求められるレースで正しい正解を引けるかどうか。まあ正解といってもファンに納得してもらうには強気な先行押し切り以外はないのだが……。
先のメジャーエンブレムがNHKマイルCでミスを取り返したように、また同じパターンかもしれない。後は「アノ時とは違う」ルメールがどう乗りこなすかだ。消耗の激しいレースを経験したため、おそらくローテーション的に桜花賞直行が濃厚。君は刻の涙を見る。
そういや、新馬戦でエンブロイダリー負かしたミリオンローズはどうしてるんだろうか。ただあのレースはモレイラが差す競馬で切れ負けしたから度外視だろうなあ。