ルメール「またG1勝てる」武豊「止まっていません」戸崎圭太「残念です」天皇賞・秋の回顧
騎手で着順が前後した結果
東京11R天皇賞・秋(G1)芝2000
2日、東京競馬場で行われた第172回天皇賞・秋(G1)は、C.ルメール騎乗のマスカレードボールが1番人気に応えて勝利。勝てるだけの実力を持ちながら無冠に終わった春の雪辱を果たすことに成功した。待望のG1タイトルを手に入れ、ドゥラメンテの後継種牡馬としても注目の存在となるだろう。
G1馬が7頭出走した豪華メンバーで争われたレースだが、それでもファンが無冠の馬を1番人気に支持したのはルメールの騎乗があってこそかもしれない。実際、ルメール以外の騎手が乗っていれば、取りこぼしも十分にあり得たレース展開にも映る。
レースは外の8枠13番からハナに立った武豊とメイショウタバルが先導。馬は気持ちよく走っていただろうが、1000m通過は驚きの62秒0。何しろ同日8Rの百日草特別(2歳1勝)ですら、1000m通過61秒9の超スローで流れ、1番人気も2番人気も共倒れしていた。精密なペース配分で定評のあるレジェンドが異質なラップを刻んだからには、何か秘策があるのかもと思わせるのに十分だった。
しかも舞台は歴戦の古馬が集まる伝統のG1・秋の天皇賞。大逃げを打たなかったからには、「ロングスパートに持ち込んで後続の脚を使わせるのか?」という想いも過ぎった。
だが、この日の武豊は少なくとも我々が知っている人物とは別人のよう。そのまま無為無策に同じペースで走り続けた挙句、メイショウタバルが最もやってはいけない「スローの切れ味勝負」を自ら演じてしまったのだ。何を言っているのか分からないだろうが、俺も何が起こったのか分からない。そう、ポルナレフですらこのセリフをしゃべったに違いない。
とはいえ、何もしなかったのは武豊だけではない。
そんな道中や展開でも「やるべきことをやった人間」しか上位に来てないのだから。
だが、ここで勘違いしてはならないのは、ルメールが巧かったにしろマスカレードボールは完勝だったことだ。
最後の直線に入ったタイミングで本馬のポジションは8番手。自分より切れる脚を使う馬が前にいたなら届かない位置である。しっかりと速い脚を使った上で皐月賞馬ミュージアムマイルに3/4差をつけていた。映像では2着馬が詰めているように見えても脚色の差は歴然。まだ余裕を残したままゴールを通過している。
「すごく嬉しい。スタートはそれほど速くないですからね。直線で長く脚を使う馬なので、切れ味を使えるか、わかりませんでした。とてもレベルが高いですから、またG1を勝てると思います」
ルメールがそう振り返ったように、長くいい脚を使う馬が一瞬の切れに対応してくれるかどうかわかっていなかったはず。それを無難に押し切ったのだから、「またG1を勝てる」という言葉も出てきた。
2着に敗れたミュージアムマイルにしても、クリスチャンが「中団から競馬をして、直線でも良い脚を使ってくれました。2000mは合っていますし、良い競馬をしてくれました」と悔しさを感じられないコメント。それぞれ腕に差のない名手が乗っていたからには、馬の実力で勝敗が気あったように思う。
天皇賞秋全パト
まあそれにしてもハイレベルのレースを期待されたG1を世紀の凡戦にしてしまった武豊の功罪をどう扱うか。
「馬の状態は今までで一番良かった。早めに2番手の馬が上がってきてしまいました。ゆったり来てくれれば良かったのですが、それが競馬ですからね」
せめて平均以上のペースで走っていたなら許されただろう。
だが最悪なのは、それに続けて「それでも最後まで止まっていませんし、力は示してくれました」といけしゃあしゃあと話してしまった残念さ。「馬に乗ったこともない素人が」といわれても、これは絶対に間違った乗り方だ。
バテてないからこそもう一度伸びたし、メイショウタバルがこれまで使ったことのないような「上がり33秒1」なんて時計までマークした。そんなことよりおまえ誰だよ。武豊じゃねえだろといいたい。小一時間問い詰めたい。
他の騎手についても少し触れる。
このクソみたいな展開を幸運に変えたのは団野大成とジャスティンパレスのコンビ。4番手の好位からしぶとく伸びて3着を確保。割と注文のつかない馬だけに、いろんな展開の順応性で一日の長があった。
ステイヤーらしくギアの切り替えにモタついたものの、マスカレードボールの後ろをスイスイと伸びてシランケドとの3着争いを制した。この馬は去年4着、一昨年2着と割と得意な舞台設定。経験豊富な6歳のキャリアも対応力に繋がったか。
ここから後ろの馬は、ほぼ騎手に責任があるといわれても仕方ない。
4着シランケドは、今の勝てない横山武史を象徴するような負け。直線に入っても最後方の14番手から外を必死に上がってきただけ。上がり最速31秒7は、2位アーバンシックの32秒2より0秒5も速い。超がつくスローペースで武豊と同じく何もしなかったツケを払わされたようなものだ。
そもそもシランケドは、逃げる競馬もできる自在性もあった馬。こういう展開で自分から動いてやろうという発想もないようなら武史に怖さはない。好調時ならもっと何をしてくるかわからない怖さがあった。
先行して垂れた組は実力不足を露呈。懸命に手綱を引っ張っていたホウオウビスケッツなんかは、元々が前残りの高速馬場を味方につけて実力以上の走りをするタイプ。それがハナを奪うどころか豊を抜かさないように2番手のままでは勝てる理由もない。
後は悪い意味で目立ったのが戸崎の圭太ちゃん。新潟記念(G3)で本命も打ったし、ノーザン系クラブの5歳牝馬で勝負のタイミング。最終追い切りでも動きに力強さと軽さが見られ、「戸崎以外は買える」状況でもあった。
内容的にマスカレードボールの完勝だったため、1着が入れ替わった未来はないと9割くらい思っているけれど、戸崎圭太の怖さを思い知らされるとんでも騎乗だったと思う。
ジョッキーコメント
1着マスカレードボール ルメール
「もちろんすごく嬉しいです。天皇賞は特別なレースです。プランはありませんでした。この馬はジリジリとしていて、スタートはそれほど速くないですからね。良いポジション、好きなところが取れましたが、向正面からペースが落ちて心配しました。直線で長く脚を使う馬なので、切れ味を使えるか、わかりませんでした。ダービーではクロワデュノールの2着で、秋の天皇賞を勝ち、とてもレベルが高いですから、またG1を勝てると思います」
※イクイノックスと同じパターンなら、次走はジャパンC(G1)や有馬記念(G1)が視野に入る。
2着ミュージアムマイル デムーロ
「中団から競馬をして、直線でも良い脚を使ってくれました。スパッと切れるというよりも、ジリジリと加速するのに時間がかかるタイプです。2000mは合っていますし、良い競馬をしてくれました」
3着ジャスティンパレス 団野大成
「実績のある馬なので、一発を狙っていました。スローペースになって、動きたい時に動けない並びになってしまいました。外に切り替えてからはよく脚を使ってくれました。地力がありますし、年内2戦も頑張ってくれると思います」
4着シランケド 横山武史
「すごく良い脚を使ってくれました。返し馬は元気が良かったですが、展開だけですね。運がありませんでした。G1でも十分やれるところを見せてくれましたし、これからも楽しみです」
※展開のせいにしているようでは。
5着アーバンシック プーシャン
「発馬自体は良かったですが、2、3完歩目が遅くなるので、あの位置になりました。枠を考えて、内の経済コースを通りました。勝った馬の直後で理想的な形でした。勝負どころで置かれてしまいましたが、最後までしっかりと伸びてくれました。立ち直った印象がありますし、これからも楽しみです」
6着メイショウタバル 武豊
「馬の状態は今まで乗った中で一番良かった。前半はゆったり入れて、良いリズムで走っていました。スローに落とした分、早めに2番手の馬が上がってきてしまいました。ゆったり来てくれれば良かったのですが、それが競馬ですからね。それでも最後まで止まっていませんし、力は示してくれました」
※あれで止まる訳がない。単純に切れ負け。
7着セイウンハーデス 菅原明良
「気持ちが散漫なところがあり、自分が取っている位置を上手く守れず、下がってしまいました。スローペースでしたし、じっとしておきたかったです。終いは来ていましたし、差もないですし、今日は位置取りが全てです」
8着タスティエーラ レーン
「良いスタートを切って、好位のポジションで競馬ができました。レースの流れが遅かったので、瞬発力勝負よりも、長いスパンの脚を使うように仕掛けました。しかし、早めに動いた分、最後は疲れてしまいました」
9着クイーンズウォーク 川田将雅
「とても具合が良く、自分のリズムで競馬をして、男馬は強かったです」
※VMでシランケドと接戦なら通じると思ったが。
10着ブレイディヴェーグ 戸崎圭太
「出遅れてポジションが後ろになってしまいました。スローペースの中、折り合いはついていましたが、残念です」
※ごめんなさいがないぞ。
11着エコロヴァルツ 三浦皇成
「ペースが落ち着いてしまったので、3コーナー過ぎから意識的に上がって行きましたが、切れ味勝負になると分が悪いです。ポジションは良かったですし、流れが速くなると思っていました」
12着コスモキュランダ 津村明秀
「理想通りのポジションにつけられました。思った以上のスローペースでしたが、最後の最後に抜き返そうとして、根性を見せてくれました。チークが効いていたと思います」
13着ホウオウビスケッツ 岩田康誠
「ペースが遅かったです。自分のペースで行きたかったのですが、スタートが向こう(メイショウタバル)の方が速かったです。番手でも折り合いがつけられたら違ったと思いますが、道中力んで力を出し切れませんでした」
※交わせばエエヤンあんなん
14着ソールオリエンス 丹内祐次)
「良いところにつけられましたが、この馬には流れが落ち着き過ぎてしまいました。最後も伸びてはいましたが…」


