ルメール「完璧騎乗」で夢と希望を打ち砕く…武豊信者が見逃さなかった決定機【秋華賞回顧】
川田将雅の嫌なジンクスが継続
京都11R秋華賞(G1)芝2000
19日、翌週に菊花賞(G1)を控えた京都競馬場では、3歳牝馬のラスト一冠・秋華賞(G1)が開催された。
フルゲート18頭で争われた激戦を制したのは、ゴール前で懸命に粘る5番人気エリカエクスプレス武豊を競り落とした2番人気エンブロイダリー(牝3、美浦・森一誠厩舎)とルメールのコンビ。3着に6番人気パラディレーヌの入った3連単の払戻しは、12万9850円の高配当。1番人気に支持された川田将雅とカムニャックはまさかの16着に大敗した。
レース後のインタビューで開口一番に「G1を勝つことができて本当にうれしい」と喜びの声を口にしたルメール。今年のG1戦線は馬の力に助けられたヴィクトリアマイル(G1)をアスコリピチェーノで制したものの、9度の騎乗機会で1勝2着1回3着2回と振るわなかった。5か月ぶりの勝利の美酒を味わった勢いで復権に力も入るだろう。
「オークスは距離が長くて残念でしたが、今回は勝つ自信はありました」と振り返ったように、前進気勢の強さを見せた春とは違い、道中の走りもスムーズ。「この秋から馬が落ち着いてきて、きょうも前半はとても冷静に走ってくれました」という言葉に、精神的な成長があったことも伝わった。
次走は未定だが、この走りが本物なら古馬相手のエリザベス女王杯(G1)でも面白い存在となりそうだ。
3連単で12万円ついた馬券は難しかったものの、淀の2000mで繰り広げられた名手同士の巧みな駆け引きには見応えもあった。
何といってもゴール前で2頭が叩き合う締まったレースを演出した立役者は武豊その人である。今回が初騎乗となったエリカエクスプレスを気持ちよく行かせて前半1000m通過59秒4、後半58秒9(前傾0秒8)の精密過ぎるラップでレースを先導した。
秋の復帰初戦となった京成杯オータムH(G3)で見せ場すら作れないまま、11着に大敗していた当時とはまるで別馬のような変わり身。前任者の戸崎圭太がどうこうより、立て直した陣営と武豊の手腕を評価すべきだろう。
振り返れば、優勝したエンブロイダリーも2着エリカエクスプレスもオークスで惨敗した共通点を持っている。前者は折り合いがつかずに9着、後者は腹を決めた逃げを打ったが10着。あ、9着馬と10着馬がそのまま秋華賞のワンツーを決めていたことになるか。
ちなみにこのときは3/4馬身差。距離が2400mから2000mに短縮しても、桜花賞と同じく両馬の力関係に変わりはなかったのかもしれない。
ここまではレースの雑感に終始したが、エンブロイダリーの勝利を決定づけたのは、ルメールの好判断抜きに語れないことも確か。
秋華賞全パト
ルメール自身も「向正面でペースが遅くなってきたので、ポジションを上げていきました」と振り返っているが、これは前半5F12.5 -11.1-12.0-12.1-11.7 で12秒台が連続したタイミングと察しが付く。
逃げている武豊が後続を翻弄するマジックを駆使していた中、ここで動いたのはおそらくルメールのみ。落ち着かない走りをしているカムニャックの外から強気に進出。折り合いも十分についており、この流れなら早め先頭の競馬でも押し切れそうだと判断したと思われる。
実際はエリカエクスプレスが思いのほか好走したため、捕まえるまでに時間を要しただけのことだろう。一時はそのまま押し切るかに移ったライバルを測ったように差し切って見せた。
何も考えずに見ていると、「ただ上位人気馬に乗って勝った」ようにすら映るが、あそこで動く決断をしていなければ、まんまと逃げ切りを許していたはずである。時に無気力な騎乗を見掛けることもあるルメールだが、やはりこういうところはさすがの一言。そういう意味では惜しくも敗れたレジェンドとの華やかな競演だったといえるのではないか。
これに対し、残念な結果に終わってしまったのが、1番人気を大きく裏切る16着に大敗を喫した川田将雅とカムニャックのコンビだ。初G1勝ちを決めたオークスとは違い、ゲート入り前から落ち着きを欠くシーン。道中の走りもチグハグで無抵抗のまま最後の直線をズルズルと下がっていった。
こちらのコメントも気になっていたのだが、川田が言うには「止まり方が異常なので、先ずは無事であって欲しいです」と故障を懸念する内容。管理する友道師によれば「ゲートの中で立ち上がりましたが、入れ込んでもいないですし、道中で力んでもいませんでした」「パッと見たところ、脚元は何も異常はありませんでした。折り合いを欠いたり、入れ込んだり、ということではないと思います」とのことなので、もう少し状況を見守りたい。
いずれにしても、実力を発揮し切れないまま燃え尽きてしまった感はある。友道師の話したような「ルメール騎手の馬に抜かれた時に、馬が変わったかのように進んで行きませんでした」ということなら、外から被されて馬が怯んだ可能性も無きにしも非ずといったところか。
そんな擁護もしたい一方、SNSでも話題になった「川田とローズSを勝った馬は本番で来ない法則」にも新たな歴史が刻まれた。
川田将雅の嫌なジンクス
さすがに本人は認めたくないだろうが、G2までは勝ててもG1で大きく着順を下げているからには、そういわれても仕方がない部分もある。予想記事でも「ザ・トライアル男」といじったが、悪い方の予感が的中した。「俺は悪くない」というニュアンスが含まれているコメントの言葉選びにも、本人のプライドが伝わってくる。
レースとしては見ごたえある内容でもあり、馬券の当たりハズレは度外視しても十分に楽しめた印象だ。少なくとも中山の異常な高速馬場で条件クラスより遅い時計の行ったままだったスプリンターズ(G1)みたいな後味の悪さはない。奇しくも今回の2着馬に騎乗していた騎手が武豊ということは一致したが……。まあこの人のラップ感覚は精密機械のようであり、かつてのオリビエ・ペリエや今のルメールが「豊さんについて行けば間違いない」と評するのも分かる。
それと、個人的に最も驚かされたのは、エンブロイダリーに対する血統面の不信感を覆された点だ。ご存知の通り、本馬はアドマイヤマーズ産駒。現役時代の戦績はダイワメジャーの血が色濃く出ている先行して粘り強いが切れる脚はない共通点を持つ。
それだけにここまでそっくりなら産駒も距離に限界があるはずと推測していたわけだが、オークスで確信した内容を見事にひっくり返された。ダイワメジャー産駒は2000m以上の重賞で勝ったこともなく、芝1800mでもカレンブラックヒルが頑張った程度。だからこそ同産駒のエンブロイダリーとテレサを評価しなかった訳だが、これは割と革命的なイレギュラーとなりかねない。ただ1頭の例外として扱うべきか否か。頭を悩まされそう。
それでは、そろそろ他の馬にも触れておこう。
3着パラディレーヌについては、良くも悪くも丹内祐次って感想。元々実力上位の馬でオークスも4着に入っている。むしろローズSの騎乗が残念な内容だったため、休み明けを使われて息の入りが良化したか。
4着ジョスランも岩田望来がよく乗っていたように見えて、6→9→11→13のポジションから分かるように、ルメールと逆の判断で位置を悪くした。ここで間違えなければ3着はあったかもしれない。
5着セナスタイルと岩田康誠も最後まで消極的な乗り方に終始してしまった印象。中間の追い切りで陣営も恐る恐るという感じだったけれど、それも行き脚のつかなかった競馬と無関係ではないのだろう。ただ、全パトを見ると道中で空いた内からポジションを上げる選択も出来たように思えたのは残念。あそこまで下げてしまうとイン突きでもしなければ間に合わない。よく大外から追い上げた方だ。
最後にエンブロイダリーとルメールの優勝が、キャリーオーバーを祈るWIN5民の夢と希望を打ち砕いた話もしておこう。
この日のWIN5は、10番人気→14番人気→1番人気→9番人気と荒れに荒れていた。ひとつ前で残り4票の生存まで減っていたこともあり、WIN5ファンの誰もが「すわ、キャリーオーバー」かと大いに期待していたはず。
ところが、エンブロイダリーが勝ったために的中1票となり、払戻しレコードとなる5億6252万1610円という最高値まで飛び出した。
最終関門4票の内訳は「カムニャック2票、エンブロイダリー1票、ケリフレッドアスク1票」だったらしく、もしも武豊エリカエクスプレスが逃げ切っていればキャリーとなっていた。いやあ残念な限りである。
あ、最後にまだオマケがあった。
データを出すのは面倒なので省略するが、確か秋華賞における桜花賞馬とオークス馬の対決は桜花賞馬がリードしていたと思う。今年も例によってオークス馬カムニャックが桜花賞馬エンブロイダリーの後塵を拝した。
距離の長いオークスで評価を下げた桜花賞組が巻き返したケースは割とある印象。長年競馬を見てきて来ても、いまだに忘れて失敗するのだからどうしようもない。これはもう反省するしかない。
ジョッキーコメント
1着エンブロイダリー ルメール
「G1を勝つことができて本当にうれしい。オークスは距離が長くて残念でしたが、今回は勝つ自信はありました。この秋から馬が落ち着いてきて、前半とても冷静に走ってくれました。向正面でペースが遅くなって、ポジションを上げましたが、2番手でリラックスしていたし、その後も頑張れると思いました。直線はエンジンがかかるのに少し時間がかかりましたが、残り200mはいい脚を使ってくれました。届いて良かった」
2着エリカエクスプレス 武豊
「やりたいレースはできました。別に逃げると決めていたわけではありませんし、良い感じでハナを切れました。しかし、ずっと力んで走っていました。それがなければ最後も粘っていてもおかしくありませんでした。惜しかったです」
※そう見せかけて密かに逃げようと思っていた可能性ありそう
3着パラディレーヌ 丹内祐次
「前半は脚をためました。最後はいい脚を使って能力を見せてくれました。展開がはまればと思います。よく頑張ってくれました」
※やはり展開待ち。消極性がそのまま着順ってところ
4着ジョスラン 岩田望来
「スムーズではありませんでしたが、上位に食い込めて、この馬の力を示せました。もっとスムーズに乗れてたらと思いますし、もったいなかったです。まだ5戦でキャリアが浅いですし、まだまだ走ってくれると思います」
※指摘したように乗り方の不満はあるが、「俺は悪くない」ではなく本人も気付いているならいい。望来としてはアルマヴェローチェで乗りたかっただろう。世代最強はこっちの気がする。
5着セナスタイル 岩田康誠
「もう少し腹を据えて乗れていたら、もっと上にきていたかも知れません。内にこだわりすぎました」
※親子そろって反省の弁。そうだよなあヤス。ヤスらしくない弱気な乗り方だったよなあ?
14着テレサ 松山弘平
「スタートよく流れに乗れました。少し向正面でペースが上がった時、苦しくなってしまいました。ワンターンの方がいいかもしれません」
16着カムニャック 川田将雅
「止まり方が異常なので、先ずは無事であって欲しいです」





