川田将雅「長距離苦手説」に進境?勝つべくして勝ったルメールとエネルジコ【菊花賞回顧】
上手い騎手と下手な騎手の差が顕著過ぎる結果
京都11R菊花賞(G1)芝3000
牡馬クラシックのラスト一冠を巡る菊花賞(G1)は、残念ながら好天に恵まれない中での開催。フルゲート18頭の激戦を制したのは、1番人気に応えたルメールとエネルジコ(牡3、美浦・高柳瑞樹厩舎)のコンビだ。
これはG1タイトルに縁のない青葉賞(G2)を優勝した馬としても、おそらく初の快挙。歴史に新たな1ページを刻むこととなった。2着に2番人気エリキングが善戦したものの、3着に13番人気エキサイトバイオが激走した3連単の払戻しは、なんと14万270円の高配当。3着争いをした相手が5番人気ゲルチュタールだったこともあり、確定発表の際は悲鳴をこぼすファンもいた。
それにしても武豊や横山典弘に劣らぬ長距離の名手、ルメールの完璧過ぎる手綱捌きは素晴らしいのひと言。スタートしてすぐは15番手の後方から追走したが、勝負どころの3-4コーナーに掛けて抜群の手応えで進出。直線に入った頃にはもう楽勝ムードが漂うほどだった。
菊花賞全パト
春二冠の優勝馬どころかマスカレードボールも不在であり、何かと不確定要素の多かった今年の菊花賞。ただでさえ力関係の把握が難しかった上、週末は生憎の空模様で馬場状態は稍重。コース、距離、道悪すべての適性を求められる舞台だったはずである。
それでもなお、終わってみれば1番人気と2番人気のワンツー。なんだかんだで競馬ファンの見る目は侮れない。最も荒稼ぎに成功したという意味では、大穴エキサイトバイオの馬券を握り締めていた馬券の名人たちだったろう。
やはり絶賛すべきは、ルメールの好騎乗だったことで間違いない。
これで彼自身も菊花賞3連覇(25年エネルジコ、24年アーバンシック、23年ドゥレッツァ)を達成。まるで全盛期の武豊のような活躍をいまだに続けているのだから恐るべし。ここまでルメール一色ともなれば、他に選択の余地がないほど。今年の菊花賞にしても、やる前から結果は既に決まっていたようなものかもしれない。
勿論、勝つためには騎手の技術だけではどうにもならない。パートナーのエネルジコも十分に勝つだけの資質を備えていたことに触れておく。
こちらについては予想記事で長文を書いたように実力自体は足りていた。道悪にしてもドゥラメンテ産駒ならドゥレッツァやタイトルホルダーといった先輩が距離不安の払拭とともに背中を押してくれている。
そして、当方に◎の迷いがなくなったのは前走の新潟記念(G3)の内容。当時の回顧で2着に敗れても「規格外」と評したパフォーマンスはすこぶる目を引いた。
特筆すべきは、それまで後方待機策一辺倒だった馬が、いつもより前目のポジションで競馬をして十分過ぎるほどの切れ味を披露したことだ。しかも過去に新潟記念を優勝した3歳馬は、ハンデ戦の恩恵(18年ブラストワンピース・54キロ、23年ノッキングポイント・54キロ)もあったからに他ならない。
敗れたとはいえ、別定戦のエネルジコは56キロでの出走。勝った馬も本格化を遂げた春のヴィクトリアマイル(G1)でミルコがミスしただけの同タイム3着だったシランケド、3着ディープモンスターも次走の京都大賞典(G2)を制してレースレベルの裏付けをしてくれた。
それならもう後はエリキング相手にどう戦うかのみ。
もしこれが中距離のレースだったなら、もうひと悩みする必要もあったのだが、ライバルの鞍上には長距離戦でまったく勝てない川田将雅。これでもう2頭の優劣は明確に見えてきた。
ただ、それだけで競馬の予想が終わるほど単純なものでもない。
いつもの川田君より不気味さを感じたのは、エリキングの騎乗内容。これも予想記事で長らく説明したが、完全に馬優先のスタイルにモデルチェンジしていたからだ。繰り返しになるので省略するが、川田将雅が築き上げてきたストロングスタイルをやめてまで、長距離戦を勝つための試行錯誤をしっかりとやっていた。
それも伝わった中で当方が考えたのは、いずれ距離の克服をする可能性があるにしても、今回ではないだろうということ。別に川田君にしてもストロングスタイルで結果を残せるようになった訳であり、エリキングとの出会いだけで従来の乗り方を変える訳じゃない。あくまでこの馬と長距離を克服するためのトライアルだと考える。
意地悪な言い方をすると付け焼刃的なニュアンスも含んでおり、それはこれから彼の中で研究が進むのだろう。いずれはちょうど塩梅の折衷案を見つけるかもしれない。
これに対し、毎度のように距離をこなしているルメールには一日の長がある。というのも常に馬優先のスタイルで乗るルメールに距離は関係ないからだ。レース中の折り合いも仕掛けのタイミングも進路取りも何もかもが完璧だったのだから、こればかりはさすがルメールさんといったところか。
ではそろそろ2頭の回顧はこの辺にして、他の馬についても触れていく。
3着エキサイトバイオは大方の予想を覆す大激走といっていい。こちらはフィエールマンが敷いたラジオNIKKEI賞(G3)からのステップで見事に結果を出した。エリート街道を歩んだわけでもなく、未勝利脱出までに5戦を要した遅咲き。
ラジオNIKKEI賞にしても、とてもレベルの高いメンバーが集まっていたとは言い難く、同レース半馬身差の2着ゼンツブラッドは土曜京都のカシオペアS(L)で3番人気7着、そこからクビ差3着インパクトシーにしても、菊花賞同日の東京8R(1勝クラス)で4着に負けたような馬。額面上の能力比較で推せる材料なんてのは見当たらなかった。
残念ながら自分の中で言語化するのは難しいことを認めざるを得ないが、あえて強調するなら荻野極の積極的な攻めの騎乗だったのではないか。
各馬が恐る恐る乗っていたように映ったレースで、荻野はコーナー通過順4-5-2-1という4角先頭の強気なポジションで道中を運んだ。結果的に敗れたものの、好位からの競馬粘り込んだのはエキサイトバイオと5着レッドバンデくらい。
こうして振り返ると青葉賞のレベルは高かった。3着ゲルチュタールは菊花賞で4着、レッドバンデは5着に好走していたことになる。坂井瑠星も佐々木大輔も好騎乗の部類に入れていい。
あとは個人的に酷かった騎手は2人いた。
それは6着ミラージュナイトの藤岡佑介と8着ジョバンニの松山弘平だ。
前者は追い切りで目を引く走りを披露していたが、スタートから最後方の消極的なポジション。直線でも大外をぶん回すという新人でも叱られそうなどうしようもない騎乗。他の騎手なら3着は狙えたと思う。
後者も期待していた馬だが、弘平が何を考えていたのか最後まで分からない位置取り。切れる脚のない馬を【9-9-12-16】とレースの流れと真逆。これがスタミナ切れで下がったのならともかく、上がり3位タイの35秒2を使っていたからタチが悪い。直線もガラ空きになったインを突いて普通に伸びていたのだ。意味が分からない。
という訳であとは各騎手のコメントにヒントがありそう。
ジョッキーコメント
1着エネルジコ ルメール
「菊花賞3連覇は信じられません。勝つのはすごく難しいですが、毎年すごく強い馬に乗っています。特にスタミナがある馬に乗りましたから、スムーズな競馬で勝つことが出来ました。彼はスタートがあまり上手ではないので、今日は後ろの方で乗ろうと思いました」
※後方待機は想定済み。最初から最後までケチのつけようがない騎乗だった。
2着エリキング 川田将雅
「とても素晴らしい状態で競馬場に連れてきてもらいました。精一杯走って、頑張ってくれましたが、一頭いましたね」
※本人も納得の敗戦。道中はすぐ前にエネルジコを見る形。騎手が逆なら分からなかったというと意地が悪いけど、川田将雅の覚悟の見えた好騎乗だったのではないか。
3着エキサイトバイオ 荻野極
「この馬にしてはだいぶ気負っていましたが、レースでは上手に自分から動く競馬をしてくれて、強いところを見せてくれました。気持ちがさらに落ち着いてくれば、なお成長できると思います」
4着ゲルチュタール 坂井瑠星
「状態は良かったですし、折り合いも問題ありませんでした。初の一線級相手で、動いていきたかったですが、動きたいところで動けませんでした」
5着レッドバンデ 佐々木大輔
「ゲートは出てくれました。大外外枠なりに内に入る感じで進めました。重い馬場もこなしてくれたと思います」
6着ミラージュナイト 藤岡佑介
「スタート次第でポジションを気にせず、リズム重視で進めました。流れが遅いぶん、少しもったいなかったです。来年もっと良くなると思います」
※アホ、ボケ、ハゲ!反省するだけマシだけど。おまえが200%悪い。
8着ジョバンニ 松山弘平
「ゲートを出られず、うまく流れに乗れませんでした。いいポジションでレースができませんでした」
※明らかに下手乗りしたと認めちゃった。だって酷かったもの。
9着レクスノヴァス 横山和生
「スタートを決めて、いい流れになりました。途中で動いてくる馬がいなかったら、もっと楽だったと思います。現状は力の差があると思いますが、よくここまで来てくれました」
11着アマキヒ 戸崎圭太
「道中はスローで、ついていけましたが、動きたいところで動けませんでした」
13着マイユニバース 武豊
「スタートがあのような形だったので、切り替えて運びました。思ったより折り合って、向正面もいい感じでした。4コーナーを回ったところで(手応えが)無くなってしまいました」
14着ショウヘイ 岩田望来
「正直3000mはこの馬には長いです。折り合いに苦労しました。適距離ではありません。また改めて頑張りたいと思います」
17着ラーシャローム 岩田康誠
「この馬なりに夏より成長を感じました。行きっぷりも良かったので、自己条件で改めてですね」
18着ジーティーアダマン 北村友一
「レース前から少しテンションが高く、気負っていたと思います。良いスタートから良いペースで運べました。距離というより気負った分だと思います」
これみんな当たり前のように動きたいときに動けなかったと弁明しているが、それはオマエの実力だろとツッコミどころが多い。「長距離は騎手で買え」の格言はまだまだ有効。乗り方次第でもっと上の着順に入った馬は複数いそうね。





