ドリームジャーニー、オルフェーヴルの再現ある?G1馬の全弟が見せた驚きの大変身
昨年の菊花賞馬アーバンシックが日経賞(G2)で復帰した先週の土曜中山。有馬記念(G1)で1番人気に支持された馬の参戦とあって、ファンも単勝1.7倍の断然人気に推したが、格下相手に3着とまさかの取りこぼし。天皇賞・春(G1)の主役候補と目されていただけに残念な結果となった。
長距離戦軽視の風潮はあれど、今年の天皇賞は本馬以外にもヘデントールやサンライズアースなど、ハイレベルの4歳世代に楽しみな馬も登場している。渋った馬場も大いに影響したと考えられるため、アーバンシックが有力馬であることに変わりはない。
G1馬の全弟が見せた驚きの大変身
その辺の比較や精査は春天の週に任せるとして、個人的に気になったのは同じ土曜中山でもひとつ前に行われた伏竜S(OP)を圧勝したルクスメテオール(牡3、美浦・堀宣行厩舎)の方だ。
11頭立てのレースを大外から出たなりに好位をキープ。抜群の手応えで4角4番手に進出すると、他馬をまったく寄せ付けずにぶっちぎってしまった。ゴール前で余裕を見せながら、斤量も他より1キロ重い58キロを背負って圧巻の走り。何度やり直しても勝てるだろうと確信する強さだった。
これが初コンビだったJ.モレイラも「4コーナーでの手応えもよく、追ってからの反応も良かった。終いもしっかりとした脚。良い勝ち方だった、良い馬です」とパートナーのポテンシャルに感心。まるで追い切り替わりといわんばかりの楽勝だったのだから、誰の目にもいい馬と映るだろう。
恥ずかしながら当方は、WIN5対象レースを専門にチェックをしているため、ルクソールカフェのレースを見たのは2度目。記憶が正しければ、アドマイヤデイトナとハナ差の接戦を制した昨年11月東京の未勝利戦か。
このときは3着馬が大きく離されていたとはいえ、未勝利戦でそこまでインパクトは残らなかった。弁明させてもらうと、当時のルクソールカフェはデビュー2戦を連敗してようやく勝ち上がったタイミングだったのもある。
しかし、伏竜Sのパフォーマンスを見た後では、こんな強い馬がなぜ連敗をしていたのだろうかという疑問も浮かび上がる。
4着に敗れた8月札幌のデビュー戦には、豪州の名手D.レーンが騎乗。好スタートを決めるも、行きたがったのか道中で頭を上げるシーンもあり、勝負どころで外から上がって行ったものの、そこから伸びきれずに4着に敗れた。
レース後にレーンから「キックバックを気にして外に行った」と頭を上げた理由の説明もあったが、「一度使って次はよくなると思います」という程度で、これといった悔しさも感じられないコメントである。少なくとも戦前に「能力は高く勝ち負け」と期待した堀師との温度差がある。
続く2戦目も堀師は「砂を被って頭を上げ、外へ出して早めに動くチグハグなレース」と前走に不満を見せつつ、結果は先に抜け出したアローオブライトを捕まえられずにクビ差の2着。騎乗した佐々木大輔は「スタートの一完歩でトモを落として後手に回った分」と悔やんだ。
ただ、勝ち馬に乗っていた藤岡佑介は「僅差でも完勝だった」と振り返ったように、ここまでの2戦はこれといって光るものもなかった。
そういう流れで目撃したのが先述の未勝利戦勝利だった訳で、戦績も3戦1勝ならどこにでもいそうなダート馬といえる。それだけに驚きべきは以降の豹変ぶりだ。
R.キングが騎乗した4戦目の黒竹賞(1勝)を5馬身差で楽勝すると、ヒヤシンスS(L)も勝利。2走前にハナ差で争ったアドマイヤデイトナは0秒6の差をつけた。そして冒頭で話した伏竜Sの圧勝と繋がった。
これで4連勝となった訳だが、レースぶりを見ていてもデビュー戦で連敗を喫したのが嘘のような走り。キャリアの浅い粗削りな若駒とはいえ、一体どのような変化があったのだろうか。
負けても負けても陣営の自信は揺らがず
ひとつ気になったのは管理する堀師の強気な姿勢が一貫していた点。血統的にG1馬カフェファラオの全弟という背景もあったのだろうが、師は結果に関係なくデビューから絶大な信頼を置いている。本馬が必ず走る馬になることを前提に中間の調整や気性、肉体的なケアも含めて成長を見守っていたようである。
そんな事情を知ってか知らずか、ファンもデビュー戦から伏竜Sまで6戦すべてで1番人気に支持しており、こちらについても堀師と大差ない期待の表れだったのだろうかもしれない。
そんなことは今更かもしれないが、なぜ記事にしてまで採り上げたのかというと、伏竜Sのパフォーマンスがなかなか素晴らしかったからだ。
ちょうど翌日に同じ中山ダ1800のマーチS(G3)が行われたため、比較材料として都合がよかった。
ダートの稍重は同じで、勝ちタイムはマーチSのブライアンセンスが1分51秒5、伏竜Sのルクソールカフェが1分52秒1でその差は0秒6。走破時計としては6着ハビレに相当する。
次に注目したいのが道中のラップ。マーチSは前半1000m通過60秒9と流れ、L3も38秒5と逃げ先行馬に厳しい展開。それでも4角先頭のマテンロウスカイが0秒1差の2着に粘り、2番手のロードクロンヌも同タイムの3着と強い内容だ。
対するルクソールカフェは前半1000m通過63秒1のスローペースを5番手で追走。4角で先団に並び掛けると後はもう知らんと後続を置き去りにした。
古馬の重賞と遜色のないパフォーマンス
そこで特筆すべきは、L3を12秒5→12秒2→12秒0の加速ラップで突き抜けていたことだ。ゴール前でも楽な手応えを残しており、完全に余力残し。対するマーチSはペースが流れたため、脚が鈍るのは当然だが、L3で12秒4→12秒7→13秒4と一杯一杯。お釣りのなくなった馬が計時したタイムと、まだ余裕のある0秒6差ならるルクソールカフェの強さが浮き彫りになる。
そして、58キロの斤量も走破タイムで同じだったハビレの57キロより1キロ重い。単純比較でマーチSで5着以内に入れた可能性が高いという訳だ。しかも相手は歴戦の古馬が集う重賞。堀師の言葉通り成長途上でまだ完成前ということを考えれば、ここから更なるパワーアップも期待できるはずだ。
振り返れば全兄カフェファラオは弟とは逆にデビューから無敗の連勝を決め、その後に脆さを見せていた馬。そんなこともあって当初の期待から少しがっかりした記憶もある。ところが弟のルクスメテオールは出だしで躓いた後に底知れない強さを見せたことが、かえって大物感を醸し出していないだろうか。
そういう意味ではドリームジャーニー、オルフェーヴル兄弟の成長過程に通じるものもある。
パッと思いついただけなので気のせいかもしれないが、何となく似ている気もするよなあ。