「ファンダムはダテじゃない!」名馬の法則より評価すべきは歴代最高のアレ【毎日杯回顧】
今週の重賞は大阪杯(G1)のみということもあり、WIN5以外のレースについても触れておこうと思う。見どころのあった馬は、近い将来WIN5対象レースに出走する訳だから、事前にチェックしておいて損はないだろう。
本稿ではファンダムが勝利した毎日杯(G3)を振り返る。
このレースにはファンダムの他にもう1頭の無敗馬、リラエンブレムも出走しており、1番人気に支持されたのは後者の方。いずれもマイル戦で2戦2勝の無敗馬同士、人気に差が出たのは重賞のシンザン記念(G3)を制したか、リステッドのジュニアCだったかだろう。
リラエンブレムは不可解な凡走
ただ、リラエンブレムは好スタートを決めながら中団まで下げるシーンはあったものの、勝負どころでまったく反応がないままズルズルと後退。鮮やかな勝利を決めた前走とは異なり、別馬のような凡走をしてしまった。
これには手綱を取った浜中俊も頭を悩ませたはずだ。レース後に「競馬は折り合いもついていました。ストレスもなく回ってこれましたが、直線に入ってゴーサインを出してから反応もなく動かないまま終わりました。敗因については良くわかりません」と振り返っていたように、消化し切れていない様子である。
対するファンダムは非常に収穫の多かった初重賞勝利となった。こちらはトップスタートを決めるセンスの良さを見せたのだが、鞍上の北村宏司に出していく気は全くなく、見た目にもなかなか酷い下がりっぷりだった。
その気になれば逃げる選択も可能だった展開を後ろから2番手まで下げる。そのままじっとしている内に後ろの馬にも交わされて、最後方までポジションを悪くしたのだから、ファンダムの馬券を買っていたファンは、故障やアクシデントすら脳裏に浮かんだかもしれない。
だが、そこからが本馬の本領発揮。直線半ばでようやく外に持ち出されると末脚一閃。まるで他馬が止まっているかのような豪脚を繰り出し、瞬く間に差し切ってしまったのだ。そう、1頭だけ早送りしたかのように……。
何やってんだおまえ…
この理解に苦しむ騎乗の答えは北村宏司のコメントにあった。
当人曰く「冷静に走ってくれたので自信を持って直線に向くことができた。気性に前向きな部分があり、セーブしながら走れるように調教師と課題にしながら臨みました。すごくいい内容で走ってくれたので、この先も頑張ってくれると思います。また応援してください」らしい。
率直な感想を言うと「意味が分からない」の一言だ。確かに内容としては凄く良かった。でもそれは鞍上の騎乗が酷過ぎたからこそ、強い馬でなければ勝てない逆境を跳ね返したに過ぎない。少なくとも北村宏司はこの馬にとって毒にも薬にもならない乗り方をしただけに映る。
デビューから2戦のファンダムは、ともに4角2番手から優等生のレースをして連勝した。それも前残りする当時の中山の高速馬場であり、理に適ったポジション取りだったろう。
それはいい。だからといって毎日杯の乗り方はなんだ?ロケットスタートを決めた馬が故障でも発生したかのように下がり、最後方まで下がった上で直線一気だと?もうね、アホかと馬鹿かと…もっと他にあるだろう他に、こんな極端なレースをしなくてもよぉ。
9頭立てのレースで前と後ろがそれほど離れなかったとはいえ、ルメールやモレイラがこんなふざけた騎乗をしたか?武豊ならやりかねないが川田将雅もやらないね。限度がある。
にもかかわらず、本人はああたかもいい仕事をしたかの如く満足したコメント。違うなあ、これじゃトイレを失敗した犬が褒めてくれって寄ってきているのと大差がないよ。むしろ酷い乗り方のお陰でファンダムがタダモノじゃないことだけは、より鮮明になった。宏司君、おつかれ、もう帰っていいぞ。
で、まあ何が凄かったのかという話になるのだが、芝1800mに変更された以降の毎日杯で、1分46秒台で走破した馬が出世するってヤツね。
25年ファンダム 1分45秒9良 0.8 32.5
24年メイショウタバル 1分46秒0重 0.0 34.4
21年シャフリヤール 1分43秒9良 0.0 34.1
18年ブラストワンピース 1分46秒5良 0.3 33.9
17年アルアイン 1分46秒5良 0.1 34.3
13年キズナ 1分46秒2良 1.5 34.3
08年ディープスカイ 1分46秒0良 0.5 34.8※10年ダノンシャンティ 1分49秒3良 0.7 33.4
この中で明らかに異質なのは昨年のメイショウタバル。まあとにかく超速だったよね去年の馬場は。こんな時計に何の意味もないことは、皮肉にもメイショウタバルの成績が証明している。
とはいえ、タバルより前の5頭はみなG1馬。例外的にダノンシャンティも足しておいた。
今年も馬場状態が良過ぎた関係で、ファンダムの1分45秒9のタイムに、そこまで大きな価値はないかもしれない。そもそも同日の同じ芝1800mで行われた君子蘭賞(1勝・牝馬限定)を勝ったルクスジニアが1分45秒8で逃げ切っていたからだ。
時計だけでG1級なら、こんな成績のはずはない。じゃあファンダムだってそうじゃないかという話になりかねないが、2頭には決定的な違いがある。それは展開を味方につけたか、敵にしたかだ。
通過ポジションを見てわかる通り、ルクスジニアは前残りする高速馬場の恩恵を最大限に受けた前残り。対するファンダムは展開どころか騎手まで敵にしての楽勝。こういうところが時計だけじゃないってことなのね。
現3歳世代で上がり最速のレコード
また、具体的なファクトもあったので補足しておく。実はレースでマークした32秒5の上がりは歴代最速だった。2位は16年スマートオーディンの32秒7だが、こちらのタイムは1分47秒3とファンダムに大きく見劣る。単純に超スローで出した上がり最速とは意味が違う。
個人的にもっともよかったのは、本馬が好発好位で競馬が可能な類まれなるセンスの持ち主であるだけでなく、世代トップ級の切れも備えていたのが分かった点。ちなみに昨年の芝1800以上の特別戦で上がり最速はクロワデュノール(東スポ杯・東京)とビップデイジー(紫菊賞・京都)の33秒3だ。今年に入っても2位がウィクトルウェルス(ゆりかもめ賞・東京)の33秒5なのだ。
そう考えると32秒5なんて数字を出してゴール前も余裕だった「ファンダムはダテじゃない(言いたいだけ)」ということになる。2戦までは怪しくてもデビュー3連勝で重賞制覇は難しい。それに血統的にも父サートゥルナーリアなら距離の融通も利きそう。近親にマイラーが多いものの、1800で楽勝したなら2000くらいはこなせる可能性も高いか。
ということで今回はファンダムが凄かったぞ(ガンダムオタクおじさん)って話です。
そりゃ現時点でって条件が付くけど、お願いだから北村宏司なんか乗せる場合じゃないってこと(どっかで聞いたなこれ)。さっさとちゃんとした騎手に強化して欲しい。オペラオー時代でもないから皐月賞(G1)ってことはなさそうだが、次走はNHKマイルC(G1)や東京優駿(G1)も視野に入ってくる。
コイツはちょっと楽しみな素質馬じゃないかな。