「元お手馬ワンツー」浜中俊に唯一の救い…なぜナムラクレアはルメールでも負けた?【高松宮記念】
30日、中京競馬場で行われた高松宮記念(G1)は、J.モレイラの騎乗した2番人気サトノレーヴが、C.ルメールの1番人気ナムラクレアの追撃を退けて優勝した。
昨年暮れの香港スプリント(G1)で最強スプリンター・カーインライジングの3着に入った実力は、絶対王者の不在の日本なら一枚上だった。
前走で敗れていたとはいえ、鞍上のモレイラはこれが3度目のコンビ。ゴールの際にはガッツポーズで喜びを表現した一方、レース後に「重賞で何度も結果を出して、香港でもすばらしい内容の競馬をしてくれたので、いつかG1を獲るだろうと思っていた」と振り返ったあたりは想定内といわんばかり。
それでも現実にしてしまうあたりは、さすがマジックマン。最初から最後までまったく隙のない騎乗でパートナーに初G1のタイトルをプレゼントした。
完全復活に減量効果も?
サトノレーヴを管理する堀宣行調教師にとってもリベンジのかかる一戦だった。重賞を含む3連勝の勢いを評価され、1番人気に支持された昨秋のスプリンターズS(G1)は、これといった見せ場すら作れずに7着と凡走。これにはオーストラリアの名手D.レーンも首を傾げた。
憶測に過ぎないが、ひとつ関係ありそうなことがあるなら馬体重だ。元々大きな馬ではあるが、G1に出すことがメインとなったため、ローテーションや中間の調整で試行錯誤もあった様子。デビュー最高体重の552キロまで増えた結果、あのピューロマジックが作り出すハイラップについていけなかったと考えれば合点もいく。
香港で15キロ減量し、中間も好時計を連発しながら7キロ減の見栄えする馬体。これが本来のサトノレーヴの姿ということかもしれない。
だが、それだけで勝てるほど甘くはないのも競馬。何しろ今回は最大のライバル・ナムラクレアに名手ルメールが騎乗していたからだ。
ナムラクレア陣営が決断した最終手段
1着こそ縁がないものの、相手は現在のスプリント界で最強といっても過言ではない実績を持つ名スプリンター。陣営も主戦の浜中俊とのコンビで何とか悲願達成を期待したが、あと一歩で勝ち切れない姿に、とうとうスプリンターズSで横山武史に乗り替わりという苦渋の決断を下した。
ただかつて勢いのあった武史も今は勝ち運から見放されているタイミング。またしても浜中俊と同じような騎乗で3着に敗れてしまった。そこで白羽の矢が立ったのがルメール。今やG1請負人として揺ぎ無い評価を得た救世主は、初コンビの阪神C(G2)を見事な手綱捌きで快勝。否が応でも期待が高まった。
ちょうど馬場の傷みが目立つようになった中京の芝で7枠14番という理想的な枠も引いた。天気も味方をするがごとく6年ぶりの良馬場。自慢の末脚を発揮できる舞台設定に、ナムラクレアの陣営だけでなく、ファンの多くが「その時」を待ち望んだだろう。
フルゲート18頭で争われた桶狭間の電撃戦。ハナを奪ったビッグシーザーをルガルが追い掛け、これに内からウイングレイテスト、大外18番に入ったペアポルックスも競り合いに参加する。好発を決めたサトノレーヴとモレイラは中団の7番手、ゆっくりゲートを出たナムラクレアとルメールは後方6番手ほどから徐々にスピードを乗せていく。
勝負どころとなる3~4コーナーに掛けて、スペース確保に切り替えたサトノレーヴを前に見る格好でナムラクレアが後ろに取りつく。ここまではルメールの作戦通りだったかもしれない。
しかし、問題はその後だ。おそらく真後ろにいるナムラクレアに気付いていないモレイラは、自分の勝つためのレースに全集中。ゴールから逆算して勝てると感じたタイミングでゴーサインを出している。
対するルメールはサトノレーヴをマークするところまでは成功したが、自分が先に抜け出す選択肢を後回しにしていた。ライバルが既に答えを見つけていたにもかかわらず、自身はスペースもなく相手任せ。目論み通り、「サトノレーヴが動いた後」に望んだスペースが出現した訳だが、モレイラはもう負けないだろうと追い出していたのだ。だからこそゴール前で追い詰めたように見えても、それはあくまで「そう見えるだけ」に過ぎないというオチだった。
とまあここまでは筆者の推測も含まれるのだが、どうやら本当にそうなのかもと思えたのが、モレイラの「風が強く直線も向かい風だったので、風の影響を受けないよう途中まで前に壁を作り、残り250mでスペースが出来たのを確認して追った。プラン通りのレースができたという」コメントである。
ナムラクレアはなぜルメールでも負けたのか
この外国人騎手は、わずか68秒足らずの間に風の影響まで頭に入れ、ゴールから逆算してイメージしていたのだ。パートナーの力はこれまでの騎乗で把握しており、どれくらいの脚を使えるかも、どこから追い出せば捕まらないなども分かっていたはず。こんなことをされては勝てっこない。
そう思えば、一見ミスしたように見えるルメールが「すごくいい競馬。直線はモレイラをマークして、外に出して勝てるかと思いました。しょうがないです」と潔かったのも納得がいく。もしかしたらモレイラと同じく、相手よりも自分を優先して乗った方がよかったのではないかという気もしなくはないが……。
そんな息詰まる攻防を繰り広げた両馬だが、ある意味で「残酷な現実」に直面したのが、浜中俊だろう。ワンツーフィニッシュを決めたサトノレーヴもナムラクレアも元は自分のお手馬だったことのある馬だったからだ。
サトノレーヴに関しては、外国人信者の堀調教師なら平常運転で乗り替わりを決断したであろうことは想像に難くない。浜中を乗せたところでナムラクレアがいることは承知の上。正しくは降ろされた訳でもないと考えられる。むしろスプリンターズSで負けた武史は、菅原明良からトウシンマカオを奪う格好でチャンスが転がり込んだ。やはり浜中俊という男は「持っていない」のかもしれない。
救いがあったのは、ナムラクレアがG1をあっさり勝つという“最悪のシナリオ”の回避に成功したことか。ルメールレベルで結果的にミスのように見えかねない敗戦をしたが、これまで勝てなかった浜中が乗って勝てたとも考えにくいのも事実。ナムラクレア陣営としてもルメール起用は限りなく正解だったはずだが、今回に限ってはモレイラに隙がなさ過ぎたのだ。
やっぱり、どう乗っても今日のモレイラとサトノレーヴを負かすのは、難しかったのではないか。
個人的な所感
当方が改めて実感させられたのは、外国人騎手はハズレもいるが、当たりはえげつねえってこと。国内でいい馬を乗り散らかしているルメールさんも、彼らが相手になると普通に負けてしまうのだなと。
そう考えるとG1から逃げて空き巣をしている圭太ちゃんなんか可愛いもんだ。未勝利でもG1でも1勝は1勝なんて、相当割り切らないたどり着けないなって思う。そりゃハブ退治に投入されたマングースだって、他のもっと弱い獲物を狙うようになるって。
★コメント
1着サトノレーヴ モレイラ
「能力の高い馬。重賞で何度も結果を出し、香港でもすばらしい内容の競馬。いつかG1を獲ると前から思っていました。この馬のことはよくわかっていたし、厩舎サイドから指示は特にありませんでした。いいスタートからいいポジションを取ることができた。風が強く、直線が向かい風でしたので、向かい風の影響を受けないよう途中まで前に壁を作って、残り250mでスペースができてからはしっかり反応してくれた。プラン通りのレースができた」2着ナムラクレア ルメール
「すごくいい競馬。直線はサトノレーヴをマークして、外に出して勝てるかと思いました。精一杯走ってくれた。しょうがないです」3着ママコチャ 川田将雅
「前回と違って元のいい雰囲気に戻りましたし、その通りの内容。前2頭は強かったですが、最後までよくがんばりました」4着トウシンマカオ 横山武史
「返し馬で具合もよく、心身のバランスも言うことはありませんでした。上位が強かったです」6着マッドクール 坂井瑠星
「この馬のペースで運べて、最後まで脚を使ってくれた。外差しの展開になってしまいました」