■東京09Rセントポーリア賞(1勝)芝1800
古くはオフサイドトラップ(1994年)、ジェニュイン(95年)、比較的近年ではドゥラメンテ(2015年)、ベラジオペラ(23年)が制したセントポーリア賞(1勝クラス・芝1800m)。出世レースの側面はあれど、そう何度も名馬が出現するわけではない。
しかし、今年の優勝馬エネルジコ(牡3、美浦・高柳瑞樹厩舎)は、競馬ファンの心をくすぐる逸材かもしれない。
デビュー戦は昨年10月東京の芝1800m戦。逃げた馬が1000m通過61秒6のスローに落とした展開を直線11番手から33秒3の豪脚で差し切り。上がり2位の2着馬が34秒2だったのに対し、エネルジコのそれはなんと33秒3と大幅に上回った。
牡馬では小さめの440キロの馬体ということもあり、戦前は調教師からまだ非力で頼りなさがあるという言葉も出ていたが、いざレースでスイッチが入ると桁違いのインパクトを残した。
デビュー戦の手綱を任された津村も「いい意味で期待を裏切ってくれた。使ってよくなってい来る」と手応えを感じていた様子。L3のラップが11秒9-11秒3-11秒1と加速しており、後方から差すには不向きな展開をモノともしなかったのだ。
恥ずかしながらデビュー戦は見ておらず、存在に気付かなかったのだが、もしリアルタイムで見ていれば、何かしらコメントしていたかもしれない。
それから約3ヶ月が過ぎた今回、再びターフに復帰したエネルジコは馬体を14キロパワーアップして454キロで登場。相変わらず調教師は成長途上を強調し、どこまでやれるのかを見てみたいと慎重なコメントを出していた。気になったのは前走で手綱を取った津村が東京で乗っていたにもかかわらず、池添謙一にスイッチしていたこと。津村推しとしては残念だが、先々を見据えてという意味だろうか。
そして、いざレースが始まるとゲートで出遅れる想定外のアクシデントが発生。普通の馬ならその場で馬券を捨てたくなるような瞬間だが、鞍上の迅速なリカバリーもあって後方から5番手までポジションを上げた。
中盤でラップが緩んだこともあり、そこから徐々に出していきたいところだったが、池添が選択したのは意外にも最内。直線入り口では馬群が密集しており、針の穴を通すような進路探しで脚を小出しにするのは避けたい。まさに絶体絶命のピンチである。
一時はラチに接触しそうになるシーンもあったが、腹を決めた鞍上の決断は外に持ち出して存分に脚を使わせるレース。脚を残したままスライドするにしても、先行勢は既にいつでも追い出しに入れる状況だ。タイミングを間違えると取り返しのつかないロスが出てしまう。
だが、そこは度胸だけはトップクラスと言っていい池添。何とか馬場の中ほどにパートナーを誘導し、カニ歩きを成功させる。
デビュー戦で演じたパフォーマンスが本物なら、たかが1勝クラスで躓くスケールではない。眼前に進路が開けるとゴーサイン。瞬く間に前との差を詰め、何事もなかったかのようにゴールしてしまった。あれだけの不利がありながら、そんなものは関係なしと言わんばかり。まさにモノが違ったという訳である。
むしろ、出遅れやどん詰まりがあったがために、危なっかしく映っただけ。まるで自作自演で見せ場を演出しているがごとくだった。
ちなみにこのレースもL3が11秒7-11秒5-11秒6と後ろの馬に有利なラップ構成ではない。勝ちタイムこそ1分48秒2と目立たないが、時計で語るレースではないことも一目瞭然だろう。
ぜひJRA公式で全周パトロールをご覧いただきたい。
(ゴール前で池添が頭グルグルして唸ってるよ)
セントポーリア賞
エネルジコ
直線どん詰まりから
カニ歩きで外に持ち出して
手応え余裕残しで差し切り外野より乗った本人が一番よくわかってる感じ
楽しみな馬だね
共同通信杯で見たい https://t.co/Mzs0STcKzi pic.twitter.com/cK8QbbXRoT
— 黒い太陽🐯🏇【公式】 (@black_sun3710r) February 2, 2025
1着エネルジコ 池添
「2走目でゲートの中でだいぶガタガタしていて、最悪のタイミングでゲートを切ってしまいました。道中はロスなく回ってきて、直線は前が一列壁だったので外へ持ち出してゴーサインを出すと、一気にトップギアに入りました。反応の速さは大きな武器です。まだ体も緩いですし、その分伸びしろ、成長力があると思うので今後が楽しみです。良い馬に乗せてもらいました」
無敗馬に夢を見る競馬ファンの悪い癖だが、池添が乗った440キロの馬といえば、どうしても思い浮かぶのはオルフェーヴル。こちらは448キロでデビューし、2戦目に450キロ、3戦目に454キロで出走した。当時京王杯2歳S(G2)で10着に大敗した馬が、後の三冠馬になるとは誰も思わなかったはず。続くシンザン記念(G3)も2着、きさらぎ賞(G3)も3着と本格化する前の段階だった。
そういう意味では現時点のエネルジコに夢を見るだけならタダ。これからどう成長するかは分からないものの、少しでもワクワクできたなら、それでも十分。
ステイゴールド産駒のオルフェーヴルと違い、エネルジコはドゥラメンテ産駒。惜しまれつつ早逝した父の後継候補としても期待したい1頭だ。近親を見渡してみても母エノラの産駒はダートの短距離を走っていたような馬ばかり。なぜこんな馬が突然生まれたのかは謎であるが、こんなときに都合のいい言葉を我々はよく知っている。
それは「突然変異」じゃね?
そういやコントレイルも兄弟は走らない馬ばかりだったっけ。
できれば共同通信杯(G3)に使って欲しい。
ここをあっさり勝つようなら……。