クロワデュノール「王者の貫禄」も展開の恩恵無視できず…東京優駿と皐月賞に決定的違い
潔く勝者を称えるしかない
東京11R東京優駿 芝2400
雨予報が心配された今週末だったものの、先週の優駿牝馬(G1)と同じくレース前には良馬場まで回復した東京競馬場。3歳世代の頂点を決める一戦を制したのは、断然人気の皐月賞(G1)を2着に取りこぼした北村友一とクロワデュノール(牡3、栗東・斉藤崇史厩舎)のコンビだった。
2着に後方から末脚を伸ばした3番人気マスカレードボール、3着ゴール前で5番人気サトノシャイニングを競り落とした6番人気ショウヘイが入ったが、3連単の払戻しは万馬券に届かず8460円。勝ったクロワデュノールが単勝2.1倍だったことも配当がつかなかった理由だろう。皐月賞馬ミュージアムマイルは6着に終わった。
元々の評価の高さを考えれば、本来なら無敗の皐月賞馬として二冠に挑んでいた可能性まであったクロワデュノール。前走の敗戦で主戦・北村友一の実力不足も懸念されたが、少なくともダービーに関しては限りなく完璧なエスコートをしている。
皐月賞の敗戦と何が違ったのか
過去記事でも触れていたように、本馬が勝ちパターンに持ち込んだレースは、基本的に前半が流れないヨーイドンのパターン。父キタサンブラックと武豊のコンビもそうだったが、スタートしてすぐ好位につけられる抜群のセンスと持ち前のスピードが武器だ。そして今年のダービーは、それが余すことなく発揮できる舞台設定でもあった。
まず、好スタートを決めたパートナーを迷いなく出していった鞍上の判断も功を奏した。外の7枠13番を引いたこともあり、周りの出方を見てから競馬を決める選択肢もあっただろうが、どうやら先行抜け出しの必勝パターンは決めていた様子。1コーナーの入り口で早々に4番手をキープしているのだから、結果的にこの判断が勝負の決め手となった。
意外に映ったのは大外8枠18番を意識したのか、サトノシャイニング武豊が逃げの手に出るという奇策を披露したことだ。外々を回るロスを考慮してのものと考えられるが、この時点でもう1着はないなと感じる乗り方だったように映る。
そのサトノを交わしてハナを主張したのが田辺裕信のホウオウアートマン。徐々に後続との差を広げたため、2番手以降は5馬身6馬身と開いていったが、1000m通過のラップは実に60秒フラット。この数字を見た際、これはもう後ろの出番はなさそうだと諦めるしかなかった。
メンバーレベルは高いがレースレベルとしては低調?
というのも当日東京8R青嵐賞(2勝)のそれも59秒8とダービーより0秒2速い。比較対象が2勝クラスの訳だから、超G1のダービーに出走するメンバーならもはや超がつくスローペース。しかも後続を離して逃げたホウオウアートマンの刻んだラップというおまけ付きである。
ここまで来るともうクロワデュノールに勝ってくださいと言わんばかりのお膳立てが揃ったとしか言いようがない。だったら2番手サトノもそうじゃないかという見方はあれど、本馬がパンチ不足なことは皐月賞でも透けて見えていた上、逃げた馬に交わされてから少し力んで走っていた。これがショウヘイとの叩き合いに抵抗できなかった一因かもしれない。
もちろん、あまりにもあっけなく勝ってしまったクロワデュノールだが、展開としては最高に恵まれたことも補足しておく。その根拠は、先述の青嵐賞を制したデュアルウィルダーの勝ちタイム2分23秒8とダービーの勝ちタイム2分23秒7が0秒1差でしかない点だ。
これはいかにダービーで先行した組が余力を残した状態で直線を迎えたかに繋がる。同じ重から良への回復にしても先週のオークスの場合は、2分25秒7で2秒も遅かった。それプラス、後方待機策のカムニャックやタガノアビーが最速上がりをマークし、先に抜け出したアルマヴェローチェがゴール前で捕まる展開。もしオークスと同じ馬場状態でダービーが行われていたなら、クロワデュノールも苦戦を免れなかったはずだ。
2着マスカレードボールの強さも本物
それが分かった上で本記事を書いているのだから、展開に泣かされたマスカレードボールの2着は非常にもったいないのひと言に尽きる。予想記事で坂井瑠星の豪運を評価した経緯もあったが、ガシマンにしては珍しくツキがなかったなという感想。本馬も8枠17番の外から発走だったが、武豊サトノに目の前を横切られる不運もあった中、すかさず内へと進路を切り替えて最小限のロスに留めた。
道中も8番手7番手と前を意識した位置に収まっていたのだから、ガシマンの騎乗に文句はつけられない。この馬を自信の本命に指名した当方としても、この3/4馬身差が恨めしい限り。着順こそ明暗が分かれたとはいえ、一番強かったのはマスカレードボールだったという見解に相違はない。
勝ち馬が直線3番手、2着が7番手、3着4番手、5着2番手というポジションを踏まえても、超がつくスローペースで前後したに過ぎず、上位5頭で力負けをしたのはショウヘイとサトノシャイニングのみ。マスカレードボールは不運な展開に泣いたと考える。
また、「最も運がある馬が勝つ」のがダービーということで、ガシマンの豪運に託す結論だった一方、クロワデュノールと北村友一もまた、展開が向く強運を持っていたということ。それを引き寄せたのが鞍上に迷いがなかったこと。皐月賞の敗戦でも自信が揺らがなかったのが最大の勝因ともいえそう。
実際、皐月賞は様々なアクシデントが発生した異常なレース展開。それもこれもひとえにファウストラーゼンの強引なマクリが多大な影響を及ぼした。あの道中でぶつけられたりハイペースになったり、各馬の騎手の手腕が求められる難しいレースになった。だからこそクロワデュノールが抱えている北村友一という弱点が露呈する格好にもなったし、その逆でモレイラの対応力の凄さがミュージアムマイルの勝利を呼び込んだ。
まあ率直な感想を言ってしまうと、クソスローのクソ前残りのラッキーを最大限に生かしたクロワデュノールが勝ち、タイムも2勝クラスと0秒1しか違わない低レベルだったという意地悪な見方も成立する。別に馬のレベルが低いのではなくレースレベルとしては低かったという話である。
それでも実力上位の馬が人気に応えて走った訳で、ダービーという見応えはあった。
ミュージアムマイルの評価は分かれるところ
さて、ここまでが上位に入線した馬の見解となるが、ここからは5着以下の馬について話そう。
5着エリキングは休み明けぶっつけの皐月賞で不完全燃焼から6着。上がり最速33秒4(な阪関無)を駆使して浮上したものの、スタートの出もよくなく道中で川田も動く気配がなし。展開待ちの直線勝負に徹したあたりは、着拾いのような競馬。川田将雅にしてはおかしな乗り方をした印象が残った。
6着ミュージアムマイルはスタートだけ決めると、行き過ぎず下げ過ぎずの中団待機。直線で34秒1の末脚を使ったが、さらに後方にいたエリキングに交わされたあたりは、皐月賞のフロック説が浮上する。
あくまで当方の見解だが本馬は2000程度なら距離の持つマイラーという印象。皐月賞はモレイラがどうにかしてしまっただけであり、元々の評価もトップクラスとは言い難いように感じる。陣営からは距離が延びてもというコメントも出たが、菊花賞(G1)でというタイプにも思えない。
また、調教で抜群の動きを見せたジョバンニは、ある程度融通の利くタイプではあるが、正直先行して展開を味方につける必要があると考えていたから、切れる脚のない馬に9番手で競馬をさせた松山弘平の判断ミスにも映る。この手の馬こそサトノシャイニングのような奇策が向いたと思う。
未知の魅力では最大の惑星となったファンダムについては、まさにピンかパーかの評価。毎日杯(G3)の走りにスケールの大きさを感じられたが、直線でズルズルと下がったのは距離の問題や初の左回りの影響もありそう。なんというか、父サートゥルナーリアみたいな凡走かもしれない。
紐でという意味で不気味だったリラエンブレムはロジャーバローズと同じ1枠1番で、レース前に12番人気。前残りの馬場を意識してラップの分からない浜中が飛ばせばワンチャンくらいに思ったが、浜中俊に期待する方が間違いだった後方待機策では出番がない。
★コメント
1着クロワデュノール 北村友一
「僕がダービージョッキーというよりも、クロワデュノールがダービー馬となれたことが何より嬉しいですし、そこに最高のエスコートをできたことが一番良かった。僕の思いは一点だけ、馬を信じること、自分を信じること、信じるという点だけです。信じた結果がこうして1着に結びついてよかったです」※この謙虚さが好感度に繋がる。そう、確かに北村友一がダービージョッキーになったのではなく、クロワデュノールがダービー馬になったレース。だが、選択を失敗しなかった北村友一も褒められていい。
2着マスカレードボール 坂井瑠星
「課題のテンションはなんとか我慢してくれたし、状態は非常に良く感じました。レースは勝ち馬をマークできればと考えていて、折り合いはスムーズでした。この枠から考えられるレースは出来たかなと思います。最後までしっかり脚を使ってくれましたが……。勝った馬は強かったです」※勝ち馬の楽さを考慮すれば勝ちに等しい2着ではないか。
3着ショウヘイ ルメール
「GIレベルのメンバーで、凄くいい競馬をしてくれた。特に3~4コーナーから直線にかけて、昨日の雨の影響があってバランスが良くなかったのですが、凄く頑張ってくれて3着でした。精一杯走ってくれました。秋が楽しみです」4着サトノシャイニング 武豊
「頑張りました。1コーナーで外から来られた時にエキサイトしてしまいました。残念でした」5着エリキング 川田将雅
「とても具合良く今日を迎えられました。直線も素晴らしい走りで能力を示してくれました。次に繋がる良いレースが出来たと思います」6着ミュージアムマイル レーン
「7番枠からいいスタートを切って道中の反応も良かった。後方からの競馬になりましたが、この馬としてはリズム良く走れました。直線も反応を見せて一生懸命走ってくれました。今日はポジション取りと展開の差が出た感じです」8着ジョバンニ 松山弘平
「中団で折り合いがついて我慢もきいていた。最後に体が浮いてくるような走りになってしまって反応が鈍いところがありました。距離は大丈夫でした」14着ファンダム 北村宏司
「1600mを2回使って1800mを使っての東京2400mで。力んでいる時間が長かったので、その分直線までお釣りを残すことが出来ませんでした。最後は脚が上がってしまいました」
最後に一つ。スローからヨーイドンの得意パターンで結果を残したクロワデュノールにとって、最大の勝因はファウストラーゼンが何もしなかったことかな、皐月賞にしてもあの馬がいなければ、普通に勝っていたと思う。
それに馬場が急激に高速化したのも大きい。オークスの馬場ならマスカレードボールが差し切っていたのでは?ということでこれで白黒がついたとは考えていない。
ただクロワデュノールは凱旋門賞(G1)への挑戦も視野に入れているとのこと。非常にポジティブではあるが、この数年日本競馬の馬場超速化は悪化の一途。とても欧州のタフな馬場をこなせる土壌ではないため、手放しで歓迎は出来ない。