武豊デシエルト大暴走に「岩田仕様」も影響?完璧超人と化した川田将雅が会心の一撃【金鯱賞】
16日のWIN5対象3レース目として開催された中京11R金鯱賞(G2)は、直線3番手から抜け出した川田将雅の4番人気クイーンズウォークが優勝。勝ちパターンに持ち込んでいた岩田康誠の1番人気ホウオウビスケッツをゴール寸前でハナ交わした。3着に池添謙一の6番人気キングズパレスが入った3連複の払戻しは4470円、3連単は2万8480円だった。
まさに必然と偶然が織りなしたドラマのような結末というしかない。重馬場で行われた10頭立て芝2000mのレースは、武豊が初コンビを組んだデシエルトがスッとハナに立つ。ここまでは誰もが想定した展開だったのだが、その直後に観衆がざわつき始める。そのままマイペースの逃げに持ち込むと思われた人馬が、後続との差をアッという間に広げたからだ。
鞍上はペース配分に定評のあるレジェンド武豊。奇しくも1998年にサイレンススズカとのコンビで大差勝ちを決めた同舞台だ。このサイレンススズカやパンサラッサのような逃亡劇に胸を躍らせたファンもいただろう。
しかし、そんなファンの妄想を現実に引き戻したのが、目を疑うような1000m通過のラップ。モニタには58秒2という受け入れがたい数字が表示されていたのだ。
この時点でデシエルトの勝利に期待したファンは生きた心地がしなかったはずだ。雨で馬場の悪化した中京は、1400mや1600mのレースでも58秒2より遅いレースが繰り広げられていたほど。それでももしかしたらこれも作戦の内で、ゴールまで他馬を置き去りにしてしまうのではないかという夢を見たファンもいたかもしれない。
だが現実はそんなに甘くない。
道中で20馬身ほどあったリードも直線入り口では10馬身程度にまで縮まり、残り200m過ぎあたりまで先頭をキープしていたものの、直後につけていたホウオウビスケッツが並び掛けてパス。勝負あったかに映ったところを外から猛然と追い上げたクイーンズウォークがハナ捉えたところでゴール。同一レース3連覇のかかったプログノーシスを捨てて臨んだ勝負レースで川田は最高の結果を手に入れた。
まさに事実は小説より奇なり
今年の金鯱賞は、各馬に騎乗する騎手の組み合わせも大きな見どころだった。ホウオウビスケッツとデシエルトという2頭のお手馬がいた岩田康誠は、近2走で圧勝の続いたデシエルトではなく、G3の中山金杯(G3)で2番人気9着に敗れたパートナーを選択している。
もちろん、昨秋の毎日王冠(G2)2着、天皇賞・秋(G1)3着の実績はあれど、そのどちらも超スローペースの前残りで粘り込んだ。展開に恵まれれば十分な見せ場を作れる一方、ペースが上がったり瞬発力勝負になると分が悪いという弱点もある馬だ。
テンのダッシュ力においてもスピードのあるデシエルト相手に競りかけるメリットはない。どちらにも騎乗していたからこそ、勝負するなら2番手から抜け出すイメージだったはずである。それでも凡庸な騎手なら暴走するデシエルトを追い掛けたかもしれないが、岩田康誠はあえてそうしなかった。むしろヤスの採った作戦は「無視」だったのだ。
レース映像を見直してみると、先頭のデシエルトとホウオウビスケッツの間には約3秒ほどの差。これをレースのラップ58秒2に合わせれば61秒くらい。そうすると前後半でほぼイーブンラップのペース配分になる。デシエルトの大逃げが際立つ一方で、岩田康誠はマイペースの逃げを成功させていたことになる。我々はラップ刻みでも天才の武豊に注目していたが、実はヤスこそ虎視眈々と綺麗なラップを刻んでいた。
そんなヤスの完璧な騎乗を逆手に取って出し抜けを食らわせたのが、クイーンズウォークを選んだ川田将雅。武豊とは違った意味での天才・岩田康誠がどう乗れば勝てるのかを考えていた一方、ヤスを捕まえれば勝てると考えていたのも川田だったのだろう。
ただ、川田もまたヤスと同じく絶対に負けたくない相手、負けられない相手がいた。それは当然ながら自分が捨てたプログノーシスである。相棒は3連覇、自身も連覇が懸かるレースで西村淳也にまさかの乗り替わり。管理するのは親密な関係の中内田厩舎。オーナーサイドの拒否でもない限り、乗ろうと思えば乗れた馬だと思う。
しかもバトンを受けた西村は最近の競馬で川田がミスした馬で好騎乗を見せるなど、世代交代のホープとして評価も高まっている若手。プライドの高い川田だけに、自分の捨てた馬で若手が勝つなんてことは許せないはず。
実際のところの背景は定かではないのだが、選択したクイーンズウォークで勝ったのだから、調子の上がっているパートナーなら今のプログノーシスに負けないという計算もあったか。それはおそらく札幌記念(G2)の凡走を機に、彼の中で何かしらの「終わってしまったサイン」もあったのだろうか。
デシエルトは明らかにオーバーペースが敗因と見てよさそう。この馬はヤスが育てたといっても過言ではない。デビューから3連勝でクラシックに歩を進めたのもヤスなら、ダートでスランプに陥ったところから再び芝に戻して復調に導いたのもヤス。にもかかわらずヤスを裏切ってまで他の騎手に騎乗依頼した安田翔伍厩舎の背信行為が招いた結果ともいえる。
また、調教から厩舎ぐるみで馬を仕上げるヤスは、野性的な感覚で走るコツを馬と共有するため、他騎手への乗り替わりはマイナスが多い。多分、福永祐一君だった気もするが「岩田君に任せるとクセがつくから他に人が乗りづらくなる」というような話をしていたことも思い出す。そう考えれば、今回ババを引かされたのがレジェンドだったというオチだった。
最後に軽く触れておくのは西村淳也。レース後のコメントで「出遅れてしまいましたね」じゃねえよって話だけども、馬に走る気というかまともに乗ったら勝てたと思えるシーンが何もなかった。別に上がり最速を駆使して脚を余したわけでもなく、後ろからの競馬で見せ場もなく馬群に沈んだだけ。出遅れて後方にいたキングズパレスにまで交わされたのだから弁明の余地もない。
そういう意味では西村淳也の騎乗に減点材料もなく、前日の落馬があった中、よくレースに騎乗してくれたと評価したいほどだ。
★コメント
1着クイーンズウォーク 川田将雅
「この馬にとっては良い馬場ではないと思った。彼女のリズムで走りながら、最後まで走り切った時に、一番前に出てくれればという思いで乗っていた。G1でなかなか結果が出ていませんが、男馬相手にもしっかりやれるところを証明してくれ、これから先も楽しみです」2着ホウオウビスケッツ 岩田康誠
「良い形になったが、少し仕掛けが早かった分、脚が上がってしまった。思った通りのペースでレースができた」3着キングズパレス 池添
「ゲートでまともに躓いて行き脚をつけていった分、もったいなかった。3コーナーから動かして長く良い脚を使ってくれた」4着デシエルト 武豊
「逃げは逃げなのですが、もう少し息を入れられるかと思った。2コーナーからムキになっていた。ハイペースになるのでこういう馬場も良くなかったですね」6着プログノーシス 西村淳也
「出遅れてしまいましたね。いいリズムで走れていましたが」
反省会
当サイトの記事を参考にしていただいた方には申し訳ないの言葉しかない。雨が降るのは分かっていたが、高速馬場が珍しくなくなったご時世に上がり38秒台みたいなレースになると思ってなかった。デシエルトとホウオウビスケッツのどちらが強いかは、まだデシエルトの方が上と考えているものの、その条件にヤスが騎乗した場合というのがついた。
本来なら力の抜けた存在のプログノーシスもこの走りを見てしまうと、既に燃え尽きてしまったのかなという感想。調子が悪いと噂された昨年に圧勝した馬が、中間で順調だった今年は惨敗なのだから競馬は分からない。3着キングズパレスにしても佐々木大輔の予定から落馬により池添謙一に乗り替わり。そして出遅れたお陰で半端についていかずに脚も溜まって伸びた。
これらがすべて同じレースで発生した事実にも驚く。馬券を的中した人をリスペクトしたい気持ちはあれど、こんな結末をすべて読み切っていたなら神レベル。競馬って本当に何があるのか分からないねと。
オマケ
個人的に川田君はそんなに好きじゃないので、狙って買うケースは少ないのだが、WIN5の中京芝2000m条件で完璧超人ということは知っていた。特に近年の成績は神懸かりで、今回の勝利を加えてなんと7連勝中、騎乗機会9回で7勝2着2回と信じられないような好成績である。
データを取っている人間的に相性のいい舞台なのは当然気付いていたが、牝馬相手の小倉牝馬S(G3)で6着に負けた馬にこんな勝ち方ができると思わなかった。それにプログノーシスがあそこまで衰えていたことも……。