4年半ぶりのキャリーオーバーに競馬ファンが沸いた先週のWIN5。普段は買わない層の購買意欲に拍車をかけたこともあり、その売上は52億6668万円という未曽有のレコードをマークした。過去に20億以上の売上は5度ほどあったが、当然ながら2011年4月24日から発売されたWIN5史上でも最高額だ。
いらない子だったWIN5に久々の脚光
では、なぜこれほどまでに売れたのかとなる訳だが、それはおそらく4年半ぶりの発生というレア感によるものだと推察する。
直近でキャリーオーバーが発生したケースは2020年7月19日、その前が2019年3月3日、さらにもうひとつ前が2018年12月23日。この18年は、本来ならもう少し伸びてよかったものの、キャリーが発生したのは1週前の有馬記念開催日という不運も重なった。
せめて前週の朝日杯FSの週に発生していれば、大幅増へと繋がったと考えられるが、有馬記念で燃え尽きたムードの中、翌週は2歳G1のホープフルSだった。もう気持ちの切れてしまったファンも多数いただろうし、暮れの大一番のお祭りである有馬と違って一般の人々の注目度もかなり下がる。それでも34億9934万円も売れたのだから、数字以上の大健闘と言っていいだろう。
再び話を戻すと前回のキャリーから今回までに、あと一歩でキャリーかというケースが複数あったことも事実。しかし、そんな競馬ファンの淡い期待は裏切られ、独り勝ちする猛者が富を独占する日々が続いた。4年半といえば、それこそオリンピックやサッカーのワールドカップに匹敵する待ち時間となる。それだけに都市伝説になりつつあったキャリーの久々の発生に胸が高まったのも当然の成り行きかもしれない。
地方競馬でもWIN5と同じく射幸心を煽るトリプル馬単が発売されているのだが、こちらはSNSでキャリーオーバーというワードを比較的見掛ける。ところが当のJRAは、2014年6月からそれまで「2億円」だったWIN5の払戻最高限度額を「6億円」に引き上げる愚策を行った。
これにより、最高額の夢は大きくなった一方、それまでは2億円を的中しても残額がキャリーすることで売上げ増に繋がっていた仕組みが崩壊。どこの誰か分からない人間が高笑いをするより、その他大勢の人間が“現実的な夢”を見られる方が売上に貢献するはずなのだ。「キャリー」のワードだけで大幅な売上増を見込めるにもかかわらず、有名無実な状況を作り出してしまったJRAの誤算ではなかったか。
当方としては、既に独り勝ちに成功しても肝心の売上自体がJRAに3割もの中抜きをされたら足りなくなってしまう昨今の「WIN5離れ」を危惧していた。ところが「キャリーオーバー」というだけで、52億円も売れた現実は驚きを隠せない。次回のお祭りはいったいいつになるだろうか。
売上が増えれば払い戻しも増える
売上の話はいったんここまでにして、今回の結果についても振り返ってみたい。
対象5レースの勝ち馬人気は5-5-1-5-1人気と大きく荒れなかったものの、決して簡単だったとは言えない内容。キャプチャ画像のシェアをご覧いただくと察しがつくように票の集中した馬のゾーンを越えた馬が複数勝利している。結果的に1番人気の勝利した小倉や人気2頭の二択で済んだラストのAJCCは難しくなかったかもしれないが、他の3レースは、一捻り二捻りしないと拾えなかっただろう。
※中京10Rは72.4%が4番人気までの4頭、中山10Rは77.3%が4番人気までの4頭、中京11Rは78.3%が4番人気までの4頭に投票していた。
ただ、キャリー効果でいつも以上に購入額を増やした層や売上そのものが6億4146万円から52億6688万円と約8.2倍と激増したこともあり、払戻しも460万円もついた。これにキャリーの繰り越し約4億5000万円が的中した801票に分配され516万3170円。もし当たれば年収500万円なわけだから、人によっては1年働かなくてもいい計算だ。
とはいえ、これが一過性のものとなってはあまりにも勿体ない。既に発売から15年目を迎えたWIN5は、正直言ってマニアしか買っていないからである。売上も年々低下の一途をたどっており、その割に難易度はやたらと高い。最大の売りである限度額6億円にすら届かない状況が続いていることにJRAも危機感を覚えて欲しい。
そういう意味でも4年半ぶりのキャリーでまだまだ売れることが分かった今回の収穫は非常に大きかった。水原一平の残した「ギャンブルをしているときだけ人生に希望を見いだせた」人も多いはず。そこに希望や救い、夢があるからこそ人は頑張れる。これを実感したキャリーオーバー協奏曲だったように思う。
JRAに批判的な立場でモノをいうスタンスの割に具体的な改善策を提案することができていないことに心苦しさを感じつつ、何とかうまい具合に打開策を見つけてもらいたいと願う。