松本大輝を覚えておいて損はない?武豊でも横山典弘でもない絶妙ラップは大逃げにあらず

スポンサーリンク
更新をメールで通知(無料)

メールアドレスを記入して登録すれば、更新をメールで受信できます。

241人の購読者に加わりましょう

松本大輝を覚えておいて損はない?武豊でも横山典弘でもない絶妙ラップは大逃げにあらず

予想以上に早かった2発目

東京11Rアルゼンチン共和国杯(G2)芝2500

9日、東京競馬場で行われたアルゼンチン共和国杯(G2)は、松本大輝の9番人気ミステリーウェイ(セ7、栗東・小林真也厩舎)が優勝した。

勝ちタイムは2分30秒2(良)。1/2馬身差の2着にC.ルメールの1番人気スティンガーグラス、アタマ差の3着に入ったのは岩田望来の3番人気ディマイザキッド。9→1→3番人気で決着した3連複の払戻は1万11560円、3連単は10万1470円の大波乱となった。

ミステリーウェイは社台ファーム生産でジャスタウェイ産駒。通算成績はこれで36戦6勝。7歳秋にして初の重賞タイトルを手に入れた。

「正直そこまで自信はなく、ただ自信のあるなしに関係なくこの馬の気持ちを最大限に走る方向に向かせることだけが僕の仕事だと思っていたので、それがうまくいったのかなと思います」

多くのファンを驚かせる激走を演じた松本大輝だが、このコメントから察しがつくように「絶大な自信」を持って挑んでいたわけではなさそう。ただただ純粋に「やれるだけのことをやろう」「相棒のペースとリズムを優先」という気持ちが前面に出た快騎乗だったに違いない。

映像的には大逃げのように思えても実際はそうでもない。でなければ34秒6の上がりなどマークしなかっただろう。

松本曰く「この馬のペースがそうなっているだけ」「プランというより『この馬と一緒に走れたらいいな』ということしか考えていませんでした」とのこと。最後に「ここまでサポートしてくれているすべての方と、今まで技術をつけさせてくれた馬たちに感謝の気持ちです」と話したところも謙虚な姿勢が伝わる好青年である。

アルゼンチン共和国杯全パト

フルゲート18頭で争われた芝2500mのハンデG2は、外の7枠13番からじわじわとポジションを上げていったミステリーウェイがハナ。周りの出方を伺っているライバルを尻目に後続との差を徐々に広げていく。

ただ、一見「大逃げ」に映る隊列も実際はそうでもない。

「一般的な大逃げ」とは、実力で見劣る馬がどさくさに紛れて前残りを狙うケースが殆ど。

しかし、このレースのミステリーウェイの場合、相手云々は関係なくただただ自分の気持ちよく走れるペースを守っていただけ。だからこそお釣りも残っており、それが二段ロケットへと繋がったはずだ。

我々は大逃げと聞けば、ツインターボやパンサラッサをイメージするが、ミステリーウェイのそれは明らかに種類の異なるもの。言葉を選ばずに言ってしまえば、周りが勝手に置いて行かれて、勝手に追いついてきただけといったところか。

それを裏付けるのが敗れた騎手たちのコメントだ。

2着スティンガーグラスのルメールが「少しエンジンがかかるまでに時間がかかりましたが、ゴールまでよく頑張ってくれました。勝った馬は離れた前を走っていたので、上手く逃げ切られてしまいました。仕方がありません」と振り返り、3着ディマイザキッドの岩田望来も「良い競馬をしてくれました。いつものポジションで競馬が出来ましたが、結果だけが残念でした」と比較的素直に敗戦を受け入れていたのが、その証拠だろう。

ではなぜ、このような事態が発生したのか。

もちろん、ミステリーウェイに勝てるだけの実力があったことは間違いないのだが、そこはやはり先述した通り、敗れた騎手たちが「勝手に置いて行かれたから」だと考える。

この違和感のカラクリは道中のラップにある。

後続を離しているかに思えた前半1000m通過のラップは60秒3。これはひとつ前のイクイノックスメモリアル(3勝・芝2000m)の60秒4と0秒1差。レースは60秒4-58秒2(後傾2秒2)の実質超スローをウィクトルウェルスが上がり33秒5で圧勝している。

当日も多少の雨なら異常な水捌けの良さを誇る東京の芝コース。馬場の良好な状態でこれなら距離が延びる2500mでも「普通にスロー」と考えた方がしっくりくる。それを踏まえた上で後半の1000mで刻まれたラップを確認すると58秒2。これを超スローと評さない理由はない。

その結果、「ミステリーウェイが大逃げをしていたわけではなく、後ろが勝手に置いていかれた」という仮説に説得力も生まれる。

上がりについても最速が直線14番手にいた8着ボーンディスウェイの34秒0。2着スティンガーグラスが34秒2で3着ディマイザキッドが34秒1。各馬の位置取りを考えれば、勝ち馬に34秒6で上がられては届かなかったのも分かる。

レース展開の解説はこのくらいにして、次に「なぜそうなったのか」を推察する。

ここからは個人的な見解を展開することになるが、おそらく「舐めていた」「東京の直線は長く逃げ切りは困難」「人気薄の若手」という先入観もあっただろう。

それにひと工夫したオリジナリティを加えるとしたら「寒くなりやすい雨の日は、人が消極的になりやすい」「そもそも他に行く馬がいなかった」という要素も考えたい。

まずは出走メンバーの前走。先行していたのはピークの過ぎた感のあるプラダリアのみ。他はいずれも中団から後方でレースをしていた馬ばかり。大胆な発想を持つ騎手なら脚質転換で結果を出すケースもあるが、この顔触れにそんな芸当をやるタイプも見当たらない。

唯一、不気味さがあるなら元々先行していたボーンディスウェイに乗っていた穴男の木幡巧也だが、前走で後方待機が新味を出したタイミング。心理的にもう一度試したくなる気持ちを推測すれば前にはいかないと読むのは、そう難しくなかったと思う。

まあ言ってしまえば、ミステリーウェイは気持ちよく回ってきただけなのだろう。

本命を打ったからこそ、当方も偉そうに講釈を垂れている訳だが、この発想を持てなかったファンは「後ろは何をしていたんだ」「東京で逃げ切りはないわ」となったはず。SNSでは「マークされる人気馬でもできればマジック」「穴をあけたくらいでチヤホヤするのは早い」という的外れな意見まで見掛けた。

いやもうここまで来ると酷いね。わかっとらん、なーんもわかっとらん。「一生穴馬を当てられない考え方」だよこれ。

1レース1レースは点かもしれないが、注意深く見ていると何かしら繋がる線もある。穴を出す馬がなぜ人気薄なのかの理屈にも通じる話。近走で実力を出し切れなかった馬や、展開に恵まれて実力以上の結果を出した馬は普通にいるのだ。

それを見つけるのが人気に振り回されない予想でもあり、穴馬券の攻略法ではなかろうか。少なくともミステリーウェイの前走を見ていれば、ノーマークはリスクしかない。仮に1着はないと思っても、2着3着に残る予想はするべきである。

幸い、当方は丹頂S(OP)の回顧記事で松本君の騎乗を大絶賛していたこともあり、運よく気付けたわけだが、どちらかというと怖いのは馬ではなく人と感じていた。こんなクレバーな騎乗をする騎手なら下手な訳がない。彼が継続騎乗するなら買い。近いうちにまた大仕事をするだろうから覚えておいた方がいいよと注意喚起していたほどだった。

前走の何がどう凄かったのかは回顧記事をご参照いただきたい。普段から騎手に辛口な人間が、ここまで褒めちぎるのは珍しいので(笑)。

当時の伏線も池添謙一の騎乗に不満があったからである。

御堂筋S(3勝・芝2400m)の団野君も上手く乗っていたけど、ラップ的には普通の逃げだね。

で、やっぱり終わってみれば「松本君はすげえよ」の結論にしかならない。

彼が乗った途端に9番人気1着が2回の勝率100%。それはまるで戸崎圭太や浜中俊の馬が、モレイラやキングに乗り替わったごとし。彼らにこんな繊細な騎乗が出来るだろうか。1ミリもイメージできないね。

馬よりも人が主役になる騎乗を見せてこそ、騎手の存在意義がある。松本君のは決して「大逃げ」ではない。それはラップを見れば一目瞭然。

丹頂S(62秒6-62秒4・後傾0秒2)

13秒6-12秒3-12秒2-12秒5-12秒0-13秒2-13秒3-13秒3-13秒1-12秒9-12秒4-12秒0-12秒0

アルゼンチン興和国杯(60秒3-59秒3・後傾1秒0)

7秒7-11秒3-11秒6-11秒8-11秒9-11秒9-12秒3-12秒4-12秒4-12秒3-11秒5-11秒5-11秒6

ただの大逃げなら赤字と青字の関係は成立しない。団野君の逃げはL1で脚が鈍っていたし、池添の逃げも63秒8-59秒1(後傾4秒7)と「非常に頭の悪い刻み方」をしている。同じ馬でも乗り手が違うだけで、ここまで変わるいいサンプルではなかろうか。

こういった伏線があっての「勝てるんじゃないか」という予想だった訳だが、ホントのところは馬よりも人に◎を打っただけなんだよね。

また、偶然にも思えるこの出会いは紆余曲折を経てのものだった。

人馬ともにチャンスをモノにした7歳馬のデビュー当初は、短距離王国で知られた安田隆行厩舎の管理馬だったのだが、師の定年による解散で現在の小林真也厩舎に転厩。箸にも棒にもかからなかった凡馬が、試行錯誤を繰り返して成長し、ベストパートナー松本大輝と出会った。

もしあのまま安田厩舎なら松本君の騎乗機会は生まれなかっただろう。こちらについては松本君を起用した小林真也調教師の名前も憶えておいて損はない気がする。彼もまた弱冠44歳で5年目の新鋭である。

それはともかく、今後の松本大輝も要チェックなことに変わりはない。

WIN5対象レースの勝利

グレイトゲイナーで大穴を出したときから気にしていた若手もこれでWIN5対象レースを3勝。9番人気2勝、10番人気1勝と高配当の使者だ。ルーキーイヤーには2度の「油断騎乗疑惑」で制裁を科されたこともある。

そんな彼が、身長176センチ、体重46キロという、騎手としては不利な状況を覆して「見る者を唸らせる」快騎乗をやってのけた事実は非常に喜ばしい。

何も考えないでミスを繰り返す騎手の多さが目立つ中、ここまで「頭を使って考えて乗れる」のは大きな武器だ。前走後にこの騎乗ができるなら、またどこかで一発やると話したが、予想以上に早かった。

今回取りこぼした人も、これを機に松本大輝の名前を覚えておくことをお勧めしたい。